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アメ村マンガ研究所

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岡崎京子の最新作が生まれる

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森-岡崎京子未完作品集-
(岡崎京子・祥伝社・1,365円)


<構成>
岡崎京子の未完、「森」を表題作にして、単行本未収録の7作を収録した作品です。当時掲載時の雑誌扉絵、カットなど、はっきりいって今でしか見ることのない画もあって、岡崎京子に少なからず影響を受けた女の子たちは是非読んで欲しい作品です。

1996年の「フィールヤング6月号」でこの「森」は連載が始まりました。主人公の青年ヨコタ君の毎日は楽しく、空しく、温かい。自分が小学生の時に近所の森を眺めつつ夢想し、思考の森にさまようのを楽しんだ日々が青年になることによって明らかに違う形となっていまった。青年になった自分自身が毎日、森にさまよっているということに気付かずにいる。そこから始まっていくお話です。しかし、この後作者岡崎京子は不慮の事故により、今も長い療養生活を強いられることになる。この作品は全3話で構成される予定だったのが、1話が掲載されたのみに過ぎません。

未完ということで、長く単行本化をされていませんでしたが、1話目を読んで「続きが読んでみたい」と思える素晴らしい内容でした。ヘルタースケルターを読んだ時とは違う感動がありました。岡崎作品の男の揺らぎ、女の信念めいた切り込み。そして、俯瞰的に死を見つめる。といった岡崎作品の雰囲気がありながら、「森」、その奥の心の落ち着け場所みたいなものがこれから描かれているのではと考えたくなります。

他にもこんな作品どこで掲載されていたの?という短編が散りばめられています。その中の作品「秋は柿色」という当時のアイドルのそっくりさん(デフォルメ?)が俳句番組(なんだその設定)に出演して、ぶっ飛んだ俳句を詠むという4ページの作品は、1985年の「かりあげくん大特集」という雑誌に掲載されていたものです。今思うと「かりあげくん」のページを埋める作品だったのかという感動は出てきます。アーカイブの一遍としての楽しみ方もできます。

そしてこの本。手に取った感覚が本という直線で構成されている感じではなくて、何やらまん丸い触感なのです。絵が浮き出た感じ、色の配置、背表紙の文字がレタリングシールを貼り付けた縁取り感、「森」は普通の新刊の紙で、それ以外は厚くなったり、色が復刻風になったり、付録のようなマンガがあったり、裏に記載されている事務的な数字のフォントに変化を待たせたり、配置が変だったり、表紙を取ると全く違う世界が存在していたり・・・。「うん?」この本はまさか・・・。やはり、そうでしたか、装丁は祖父江慎+鯉沼恵一(コズフィッシュ)の仕業でした。最高の組み合わせです。思いっきり楽しんで遊んでいます。

これほど、岡崎京子を愛する人が、読み手も、作り手もいるということです。この本は端的に言えば、マンガの1話めだけが載っている本です。その本にここまで熱くなって、最高のものを産み出す。悲観や未完はそこには存在しません。むしろ、時間はかかりましたが、真の意味での新刊が登場した瞬間ではないかと思います。

未完作というのがうたわれているのですが、何を持って未完なのか。その答えはこの本にはありません。何も変わらぬ岡崎京子があるだけで、そして、これからも続く岡崎京子があるだけです。この作品を読んだりして、岡崎京子を初めて知った人はいると思います。そういう人たちの岡崎京子はその日からはじまるのです。
by manga_do | 2011-09-21 13:51 | マンガ紹介
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